モーニング娘。「ふくむらみず期」と12期についてのお話

みなさん、お久しぶりです。
今回はいわゆる現在のモーニング娘。「ふくむらみず期」について語りたいと思います。

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今のモーニング娘。は23年の歴史の上にあり、

様々な角度から語る切り口があるでしょう。


今回は「ふくむらみず期」を語るにあたり
「'14」「12期」そして「譜久村聖リーダー」という3つの要素を中心に語りたいと思います。

 

私の主観による推論も多々あります。

そしてめちゃくちゃ長いです。

そのあたりはご理解の上、お暇な方は読んでいただければ幸いです。

 

まず「ふくむみず期」を語る上でその前段階にして完成形だった「モーニング娘。'14」を語らないわけにはいきません。そこから話を始めたいと思います。

 

モーニング娘。'14という到達点

 

プラチナ期からカラフル期へ

 

モーニング娘。のファンである皆さんは当然「’14」をご存知でしょう。
だけど意外と、当時はまだファンじゃなくて、その空気をリアルタイムで味わっていなかったという方も多いかもしれません。
そこでモーニング娘。’14がどんなチームだったのか、どうしてあれだけ完成された半ば伝説的なチームになりえたのか
私の主観をたっぷり交えながら、少しだけ解説したいと思います。


2011年、プラチナ期が終わり9期10期という若いメンバーが大量加入した時
それまでのモーニングを支えていたファンは大いに盛り上がりました。子供たちを愛で、成長を楽しみ、モーニング娘。の将来像に想いを馳せました。


個性豊かな子供たちと、すっかりお姉さんへと成長したプラチナメンバーとで作られるグループは幸福感に溢れ、それはちょうど

2020年現在の15期を迎え入れたグループの雰囲気と似ていました。

 

一方でその頃から始まった先輩メンバーの卒業ラッシュ。
高橋愛新垣里沙の5期メンバーが卒業し、将来のリーダー候補だった光井さんも無念の卒業となりました。
2012年には先輩メンバーが道重、田中という僅か2人に。後のメンバーは全員が2年以内の新人というグループ構成となりました。

 

ファンにとってはその体制でも十分グループは魅力的で、応援し甲斐のあるチームだったのですが
一方で大きな懸念がありました。


それは世間との隔絶です。
当時モーニング娘。といえば「LOVEマシーン」で一時代を築いた過去のアイドルグループ、という印象を抱かれていて
現在も活動しているという事実すら知らない人が多いほど世間との温度差に悩まされていました。
それでもテレビに出れば「モーニング娘。だ」とわかるギリギリの世代、5期や6期が次々と卒業していくことに
とてつもない危機感を抱いていた時期でした。
それはメンバー、事務所、ファンが共通して持っていた危機感だったと思います。

 

ファンも、今のグループが魅力的であるほど、それが世間に認められないことに歯がゆさがありました。

 

そしてもう一つの懸念は「パフォーマンス力」の著しい低下でした。
「プラチナ期」が後にパフォーマンスの到達点として再評価されていたこと、そして
アイドル戦国時代と言われていた当時、そのパフォーマンス力の高さをもって存在を示していたモーニング娘。
新人ばかりのグループになってその特色すら失われてしまう。

新垣さん、光井さんの卒業から僅か4か月後に田中れいなさんの卒業が発表されるに至り
まだ中高生だった9期、10期の子供たちや加入直後のスーパールーキー小田さくらですら危機感と焦燥感を露わにしています。

モーニング娘。14'」はそんな流れの中で生まれた「一丸」のチームであり
「8代目リーダー道重さゆみ」の存在により築き上げられた最高のチームでした。

 


伝説のリーダー道重さゆみ

 

 

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リーダー就任当時道重さんは、圧倒的な「一般知名度」を誇っていました。
しかしそれは「黄金期の残り香」としてではなく、彼女自身の自己プロデュースによるバラエティ出演の賜物でした。
自信に多大なストレスをかけてまで貫いた毒舌ナルシストキャラで「嫌いな女ランキング」に名を連ねるまでになった道重さんは、

そうして得たものを全て「自分を育ててくれたモーニング娘。への恩返し」として還元します。
共に歩んだ仲間たちを見送りながら、モーニング娘。を未来へと繋ぐための種まきと育苗を愛情を込めて行っていくのです。

道重さんは黄金期の最後の寵児であり、黄金期と過去のモーニング娘。を超えることを掲げました。
「黄金期の残り香」としてでは無い道重さんの知名度は後輩たちに大きな指針を示し、過去のモーニング娘。とは別の
新たなモーニング娘。像を作りあげることへの期待感を膨らませました。

時を同じくしてもう一人の「主人公」鞘師里保の存在に触発されたつんくさんや制作陣も
グループの方向性や楽曲の質を転換させ、大きな勝負に打って出ました。
事務所もまた、この時をチャンスとみてそれまで禁忌とさえ目されていた個別握手会の解禁や
大手広告代理店との再契約という大勝負にでました。

 

それは「黄金期の残り香」が完全に消えた後、モーニング娘。は存在できるのか
という瀬戸際であり、期待感と緊張感が隣り合わせの濃密な時間。

 

道重さんは黄金期を超え再びグループの隆盛を取り戻すことを常に標榜していました。

プラチナ期にはその想いゆえに、黄金期を支えたOGに対し敵視するそぶりをみせたことさえありました。

 

だけどリーダー就任以後、感謝とグループへの愛を強めた彼女は
必要なことは「過去との断絶」では無く「継承」と「更新」であると気付きます。
現在も譜久村リーダーが引き継いで行っている、事務所に所属していて連絡が可能なOG全員に、リリースごとに連絡を入れCDを渡す
ということは道重リーダーが自分で考え、始めたことです。
彼女の、過去への敬意と感謝の上に初めてグループの未来があるという姿勢もまた多くのファン関係者に支持されました。

 

道重さゆみと9人の子供たち

 

道重さんはパフォーマンスでグループを牽引するタイプのリーダーではありませんでした。

しかし結果としてそのことは後輩たちのパフォーマンススキルを飛躍的に成長させることに繋がります。
当時はそれでも歌が苦手と自称する道重さんが多くのソロパートを担い、ユニゾンではリズムを支え、
殆どの楽曲でコーラスレコーディングも担当していました。
道重さんの負担を少しでも軽くしたいという想いか、一ツアーごとの9期10期11期のパフォーマンスは見違えるほどに成長しています。

モーニング娘。’14のグループの方向性は
強く意識していた「黄金期」と、その直前の時代で多くのエッセンスを継承していた「プラチナ期」の両方に色濃く影響されていました。
つまり「プラチナ期」のパフォーマンス力を目指し、「黄金期」の華やかさを目指すという最高のハイブリット。
歴史あるグルーならではの「いいとこどり」です。

道重リーダーのグループへの愛、グループの未来へのビジョンと献身的姿は
年若い9期10期11期達の絶対的な模範となりました。

道重さんの方針、指針に従えば絶対に間違い無いという安心感。
それは9人の子供たちをのびのびと成長させる場を生み出し、またかつてないほどの意思統一が行われました。

 

 

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2つの意見があった場合に、正しいのは「道重さんの考え」であり
二人が共に「道重さんならどう考えるか」を無意識に選択することで、自然と答えは一致する。
当時子供たちは「家族よりも分かり合える」「お互いの考えが何でもわかる」といったことを無邪気に語っていますが
そのテレパシーのような意思の共有は「道重さゆみ」という絶対的指針があることによって成り立っていました。

そうして完成した「モーニング娘。’14」は10人全員が完全に同じ方向を向いたグループであり
モーニング娘。の再興という目標に向かって高いモチベーションと闘志を持ったグループでした。
またファンやメディアの盛り上がりも合さって確かな手応えも生まれていました。

一致団結した「’14」はかつてないほどに纏まり、大家族と形容するにふさわしい空間を生み出しました。
ファンは大いに幸福を感じ、メンバーもとても幸せそうで、いつまでも続けばいいと思える「過去最高のモーニング娘。」が完成したのです。

 

 

道重さゆみの卒業


'14という年の大半は「道重さゆみが卒業を控えている」状態でした。
4月末に卒業が発表されてからの半年間、子供たちは少しでも道重さんが安心して卒業できるようにとさらに団結し
また子供がミルクを取り合うように道重さんの愛情を享受しました。
限られた時間とわかっているからこそ、1分1秒を濃密なものにしようというメンバーの意識は
ファンにも大いに伝わって、「かつてないほどの幸福感」はよりいっそう膨らんでいました。

そして横浜アリーナ公演。
もはやこれについて多く語る必要は無いかと思います。
道重さんのアクシデントとそこで示された後輩たちの成長、モーニング娘。の未来を照らし
道重さんの4329日を祝福する、まさに神様が筋書を記したと思えるような伝説の公演によって一つの時代の幕が下ろされました。

 

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この時全てのファンが余韻に浸り、モーニング娘。には明るい未来しかないと信じて疑いませんでした。

一種の信仰すら生みかねないほど、この「モーニング娘。'14」の物語は完璧でした。


しかしこの信仰と「’14の呪縛」は後のモーニング娘。を大いに苦しめることになるのです。

 

受難の譜久村体制

 

'14 という幻影

横浜アリーナ公演終了後、グループは12期メンバーを加えた新編成として新たなスタートを切りました。
しかし、あまりにも感動的で印象的だった横浜アリーナの残り香はいつまでもふわふわと漂っていて
誰もが長い間、あの夢の続きの中にいるような浮遊感に襲われていたように思います。

あまりにも完成されすぎていた「'14」はいつまでもメンバー、ファンの脳裏に焼き付いていました。

そして誰もが次のモーニング娘。も、新たに12期を加えて「'14を再現」するべきだと、
'14を目指したグループ作りをしていくべきだと思っていたのではないでしょうか。

 

前項で私は'14が一つにまとまった理由を「道重さゆみという絶対的指針があったから」だと言いました。
しかし'15になったとき、そのことに気付いていたメンバーは誰一人としていなかったように感じます。
つまり12期以外の9人は、「私たちは去年なんでも共有できた。家族のように、言葉も要らないほどに」という
意識があって、どういう構造の上にそれが成り立っていたかということまでに思い至っていなかった。
だから意思統一に必要だった「絶対的指針」が無くなっていたことに気付いていなかったのです。

'15以降メンバーたちは、語るビジョンやグループの指針がバラバラな内容であることが増えました。
「スキルを磨かなければ」「個々でアピールできる仕事を」「グループの纏まりを」
それぞれが考えた上で大切なことは間違い無いながら、メンバーが完全に同じ方向を向いていた'14とは明らかに
違う雰囲気が醸し出されていました。

「去年は何もしなくても全員と意識を共有できたのに、今は何故かみんなの考えががわからない」

そんな焦燥をなんとなく当時のメンバーから感じ取っていた人もいたかもしれません。


それもそのはずで'14でメンバーが向いていた方向は道重リーダーが向いていた方向だったのです。

 

譜久村新リーダーのジレンマ

 

9代目譜久村リーダーは、絶対に道重さゆみにはなれませんでした。
それは当たり前の話で、キャリア年齢ともに圧倒的なカリスマ道重さゆみと、ほぼ同期同年代の9人という構図だからこそ
出来上がっていた絶対的意思統一機関としてのリーダー像。
それは構造の問題であって、今まで横並びだった9人の中でリーダーに就任した途端
絶対的な主導権を握ることなど出来るわけはありません。

 

譜久村さんは当事者として、おそらくリーダーに就任する前から
道重さんの卒業後に「'14」を再現することは不可能だと肌で感じていたと思います。
'14とは全く違うモーニング娘。を、またゼロから作っていかなければならないと。

それは彼女のリーダー就任の挨拶の中からも読み取れます。
「道重さんのように背中で語ることは出来ませんが、みんなで頑張っていくことは出来ると思うので」
また「高橋さん、新垣さん、光井さん、田中さん、そして道重さんに教わったことは誰よりも自信があります」
と、偉大な道重さんからの継承、というよりはそれ以前からのモーニング娘。としての継承をを語っています。

 

譜久村さんは早くから「'14の再現が不可能」だと気付いていた為に、孤独な闘いを強いられることになります。

 

'15発足当時はファンもメンバーもそして事務所関係者すら「'14」の夢の中に居ました。
ファンの間では「さゆロス」という言葉が流行し、誰もが道重さゆみの面影を追い続けていたのです。

 

メンバーにもその雰囲気はあって、例えば道重さんと連絡をとった、近況はどうだという話が出ると一斉にファンが群がりました。

特に道重さんを慕っていたメンバーのうち、飯窪さんや石田さんなどは積極的に道重さんのエピソードを披露し、また自信も「さゆロス」であることを語っていました。

 

一方譜久村リーダーは、そんな「14'ロス」の空気が支配する中にあって、求められた場合以外に殆ど道重さんの名前を口にすることはありませんでした。
有名な「フクムラダッシュ」について譜久村さんは「高橋愛さんならこういう時にどうするかを考えた」と語っています。
このエピソードは「道重さんならどうするかを考えた」とすれば「完璧な美談」でした。


実際譜久村さんが事実をそのまま口にしたのか、あえて(臨機応変なプラチナメンという意味で高橋さんの名前でも道重さんの名前でも、意味は大きく変わらない)高橋さんと言ったのかは分りません。
だけど私は後者だと感じています。


新たなグループを作る上で'14の中だけで話を完結させてはいけない。もっと大きな流れの中にモーニング娘。の歴史があり
'14という時代があり、次の時代が始まるのだというささやかな意思表示があったと思えるのです。

 

そんな「脱'14」を胸にリーダーとして立つ譜久村さんに対して
「'14の夢現」の中にいるファンからの風当りはいつしか強まっていました。


当時は絶対的に「道重さゆみ」の名を口にするメンバーの評価が上がり、あえてその名を出さず高橋さんや他のOGの名を出し
'14の話題を避ける譜久村さんを、まるで「敵」として扱うファンさえいました。

譜久村さん自身、サブリーダーとして隣で見てきたリーダーとしての道重さんの姿に受けた影響は図りしれないでしょう。
後のリーダー譜久村聖を見ていけば道重さんへの想い、影響と敬意の大きさは計り知れません。間違いなく最も特別なリーダーだと感じさせられます。

だからこそそこから脱しなければならない、そしれそのことでまるでファンを「敵」に回すような構図になってしまっていたこと。
彼女がどれだけのジレンマに苛まれたかは想像だにできません。

 

また、メンバー同士ならばそのことを共有できるかといえば、そうでは無かったことも彼女を悩ませたでしょう。
譜久村さんも「'14の意思統一」が「絶対者」の存在に依っていたことをロジカルには理解していなかったようで
どうすればもう一度みんなの意思を纏めることが出来るのか分らないようでした。
彼女もまたこの時キャリア4年弱、若干18歳の少女だったのです。

'14から'15への変化は、いうなれば絶対王政から共和制への移行ほどの変化で
そこで必要なのは徹底的な意見交換、ディベートによる意思疎通だったのですが、なかなかそれに気付けぬまま'15はスタートしてしまいました。

 

12期の悲劇


一見順風満帆のような'14から'15への移行。
その実すべてがガラリと変わる激流の中、ぽっと放り込まれた12期はみごとにその激流に翻弄されてしまいます。


先輩たちの12期への接し方はバラバラで、'14の延長線上で「家族の輪」にいれようとするメンバー、「’14」を経験した9人とはきっちり分けて「後輩」として接しようとするメンバーなど様々でした。


12期4人はそんなバラバラの接し方をされるなか、自分たちの立場を決めかね、どう振る舞うのが正解か分らないまま在籍することになりました。

12期の新人感が抜けない、お客様感が抜けないなどと、加入してかなり時間が経ってからも言われ続けたのは
先輩たちがどう12期と接するかという意思統一がされていなかったことが最大の原因だと思います。

また、スタッフも当時「'14」の夢現の中にいたような節があって
9期に10期や11期が勝手に馴染んでいったように、12期も勝手に馴染むだろうという感覚でいたように思います。
新人として12期を大きくフィーチャーすることが無く、つんくさんがプロデューサーから離れたこともあって
デビュー曲ですら殆ど見せ場を貰えないという不遇な扱いを受けることとなります。
「マジでスカスカ」「ピョコピョコウルトラ」「help me!!」各期のデビュー曲と比べて「青春小僧が泣いている」での12期の扱いはどうでしょう。

明らかに11期までと12期では世代の隔絶があるのに、それを誰も強調しようとしなかった為に12期の存在意義はずっと不安定なままでした。


12期が上の世代までと隔絶された扱いを受けられるようになるまでには13期、14期の加入を待たなければなりませんでした。
それまでの長期間、12期はグループ内での立場が定まっていなかったといえるのです。

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先輩たちの意思統一が出来ていないことによってグループの居場所が確立出来なかった12期。


しかし先輩たちは個々としては12期に大きな愛情を注いで接していました。
何とかそれぞれの良さを出してあげよう、成長を促そうと奮闘していたことはありありと分ります。
枠組みと想いが噛みあわないジレンマの中でも12期4人は何とか食らいついていけたのは、ひとえに先輩たちの愛情のおかげなのでは、と思えるほどに。

 

特に9期は12期に、自分たちのような想いをさせたくないという意識が強かったようで
あまり追い込まず、根気強く見守りながら育てたいと思っていたようです。

12期は不遇の中でも沢山の愛情を受けて、花開くときを長く地中で待つ、そんな期となりました。

 

'14の崩壊と「ふくむらみず期」始動

 

エースの決断

前述の通り'14の残り香と夢現の中始まった譜久村リーダー時代は
青天の霹靂によって一気に急場を迎えることとなります。
それが絶対的エース鞘師里保の卒業です。

鞘師さんの卒業はとてつもなくファンを震撼させた出来事で、1年前の14'時代の幸福感が嘘のような絶望感、終幕感をハロプロ界隈に齎しました。
今もって彼女の卒業理由には様々な憶測が飛びかい、また精神面でも大きな辛さを抱えていたらしいことは様々な断片から読み取れました。
本人の口から語られた卒業理由、またたてられた様々な憶測、そのどれも少なからず彼女の決断の理由だったのだと思います。

ただ案外語られていないのは彼女がグループに対してどう思っていたのか、
自身が卒業した後のモーニング娘。についてどう考えていたのか、です。

'15最初の「gradation」ツアーを終えて、後輩たちの成長を感じもう大丈夫だと思った、と鞘師さんは言いました。
だけどファンから見て、正直何が大丈夫なのかは全く分りませんでした。誰の成長を感じたのかも。

ここからはかなり個人の憶測が含まれるのですが、私は鞘師さんもまた譜久村リーダーと同じジレンマに苛まれていたのではないかと考えています。

つまり絶対的エースとしてグループの重責を担ううちに「'14」の再現は不可能で、新たなモーニング娘。を築かなければならないことを、肌で感じていたのではないでしょうか。

 

'14を語る項ではその名前を殆ど出しませんでしたが、私は'14或いは「カラフル期」という時代は
「道重・鞘師期」であったと思っています。


絶対的リーダー道重さゆみと絶対的エース鞘師里保の両輪によって作り上げられたグループの安心感、安定感こそがその本懐であったと。

だからこそ、譜久村さん同様、鞘師さんもまたすぐに'14の再現が不可能だとわかったのではないでしょうか。

 

後に譜久村リーダーは鞘師の卒業について、「悔しかった」「まだまだ一緒にやりたいことがあった」と語っていますが
このあたりにも大いに含意がありそうです。
つまり当時リーダーとエースは同じ想いを共有していた。「'14とは全く違う新しいモーニング娘。を作らなければならない」
そのために譜久村リーダーは鞘師さんと二人三脚で模索していきたかったはずです。
しかし結局鞘師さんは同じ想いを共有していながら別の結論を出してしまったのです。つまり
「自分がいたら新しいモーニング娘。は作れない」と。

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譜久村リーダーの「悔しさ」と「後悔」は、そう結論付けてしまったエースに対し「そんなことない」と強く言えなかったことにあるのではないでしょうか。
譜久村さん自身にも迷いとジレンマがある中、結論を出し次なる夢への意思を固めている鞘師さんを引き留める言葉を、当時の彼女は持っていなかった。

そして涙を飲み込んで、譜久村さんは鞘師さんを送り出すことになりました。

 

 

新たな時代

 

奇しくも鞘師さんの卒業によって「'14の再現」が不可能であることを内外がはっきりと知覚することとなりました。
ファンが夢現の中思い描いていたどの未来像にも、その中心に鞘師里保の姿があったはずです。
それが永遠に叶わなくなったことは、冷や水を浴びせかけられるように「'14」の夢からみんなの目を覚まさせました。
その「現実」に、中にはモーニング娘。から離れて行くファンも多くいたほどで混乱の渦は広がりました。

事務所もまた当事者でありながらファンと同じように混乱の渦中にあったことは
次のツアー、図らずも鈴木香音さんの卒業ツアーとなった「emotion in motion」で顕著でした。

 

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ツアー自体は各メンバーの成長や、鈴木香音さんの卒業による感動的なものでした。
だけどその割り振りは、鞘師さんの卒業が事務所の意図を超えていたことを如実に感じさせました。
鞘師さんが持っていた大量の歌割はこのツアーでは殆どが譜久村さん、小田さんの二人にスライドし
「エースの離脱の危機を逆にチャンスに」というような抜擢やチャレンジは殆どありませんでした。


それまで主に歌っていた「鞘師・譜久村・小田」が「譜久村・小田」になったということに、単純に「真ん中が欠けた」感すら出ていました。
それだけ鞘師さんの卒業が急で、事務所にその後の方針を練る暇が無かったことを示しています。

 

そんなツアーをある意味では鈴木香音さんの力を借りる形で乗り切ったあと
本当の意味で鞘師里保の卒業と’14の再現の不可能性を受け入れ、メンバー、事務所、ファンが「'14」とは違う新たなモーニング娘。像を見出したのが
2016年秋「My vision」のツアーなのではないでしょうか。

 

「ふくむらみず期」がいつからという定義は無く、その名前が表す通り譜久村リーダー体制開始からを指す場合が殆どでしょうが
私はこの「My vision」ツアーこそが「ふくむらみず期」のスタートだと思っています。


「道重・鞘師時代」の終焉をみんなが受け入れ、新しいモーニング娘。像を模索する。
譜久村リーダーが就任直後から思い描き、本当なら鞘師と共に始めたかった新たな時代「ふくむらみず期」がようやく産声を上げたのです。

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このツアーでは事務所もバラードからの始まりや、先輩メンバー全員のソロ曲披露など新たな可能性を模索したチャレンジが随所に見られます。
また鞘師の代わりにエースを擁立する、いわゆる「絶対エース」の元に纏まるシステムとは別のグループ像を模索し始めています。


当時のモーニング娘。にとって「エース不在」は重大な問題でした。しかし現在に至っても「絶対的エース」は不在ですが、もはや誰もそんなことを気にしなくなっています。
それぞれが個々の能力を最大限に発揮し、誰がセンターにきても輝ける、そんなグループになっているからです。

そしてこの「My vision」ツアー千秋楽日本武道館公演の場で13期メンバー加賀楓横山玲奈の名が叫ばれるに至り
今までとは全く違うモーニング娘。の未来像がファンの脳裏に舞い降りたのではないでしょうか。


この時をもってようやく'14は過去の輝かしい「思い出」となった気がします。

そして'14が「思い出」となったとき、黄金期の最後の寵児でもあった道重さゆみを乗り越えたこと、真の意味で「黄金期」の残り香が消えた後もモーニング娘。が存続しえた、その第一歩となったのではないでしょうか。

 

新しいモーニング娘。

 

ようやくメンバー、事務所、ファンが同じ方向を向き始めたこの時から「ふくむらみず期」の快進撃は始まります。
譜久村リーダーはここからイキイキとメンバーの個性とグループの特性を活かす方針を示し、愛をもってグループを包み込んでいきました。
今や伝説的に語られる'17「inspiration」ツアーのマッシュアップメドレーも、「カラフルキャラクター」ツアーのメドレーをもとに
メンバーが希望して生まれたことが後年になって語られました。

 

その後、メンバーの卒業という決断や、森戸さんの電撃加入といった様々な場面でも
グループの軸が大きくぶれることは無く、それぞれのメンバーが自身の役割を全うし、グループへの愛を貫きながら前に進んでいました。


譜久村リーダーはそれらの全てを大きな愛で包み受け入れて、一つ一つ丁寧にグループの歴史として、意味として積み重ねていきました。


道重さゆみ鞘師里保という絶対的な「主役」が居た頃では出来なかった、「誰もが主役になる場面がある」ということが
メンバー個々の意識の向上と責任感を増幅させました。それは「ふくむらみず期」の大きな特色なのではないでしょうか。

 


15期メンバーはそんな「ふくむらみず期」が円熟し、確立されたなか加入しました。
メンバーも待ち望んだ「新メンバー」の加入。
ご存知の通り、逸材揃いかつ可愛くフレッシュな15期にメロメロな先輩メンバーという構図が新たな幸福感を産み、'14に比肩するような
「雰囲気のいいチーム」が完成しつつあります。

 

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15期を迎え入れるにあたっての様々なエピソードの中で私が特に注目したのは、15期の指導方法です。

先輩が一丸となっている中にポンと後輩が入る、そういう意味で今回も12期加入時と似た構図でした。

しかし今回は12期加入当時とは全く違う方法がとられています。
初ツアーまでの15期集中育成期間、15期以外の先輩11人のグループラインが形成され、常にその教育方針が共有されていたというのです。


主に教育係の13期が指導する中でも「今日はどんなことを伝えたか」を先輩たちに共有し、他のメンバーが違うことを言って15期が混乱しないよう徹底する。
また15期がそれぞれどんな壁にぶつかっているか、悩んでいるかということも先輩全員で共有しそれに対するアドバイスも皆で考えるといったことも行っていたようです。

こういった先輩たちの徹底した意思疎通と教育方針の確認は
15期に多大な安心感と信頼を与えてくれます。誰に聞いてもちゃんと「モーニング娘。の先輩」としての意思が返答として返ってくる安心感は
15期が成長する上でとても大きな意味を持つでしょう。
これは12期加入当初先輩メンバーが出来なかったことです。

 


12期加入当時に出来なかったこと、してあげられなかったことの反省が15期の為に大いに役立ったこと。
実はモーニング娘。の大きな強みの一つはこの点にある気がするのです。
つまり長い歴史の中で過去の反省を次に生かせること。

たとえば9期加入時すぐに単独コンサートのリハーサルに向かうという地獄を味わい、半ばトラウマになるほどにズタボロにされた反省から
それ以後加入の期は全て先にハロコンのステージに立ってから単独コンサートに臨むという形になりました。

このように15期は、3人の資質、ポテンシャルもさることながら
過去の育成経験の集大成としてシステム面できちんと育てるノウハウが確立されていました。
また積もり積もった愛情を目一杯注がれているので、ファンも安心して彼女たちの成長を見守ることが出来ているのです。

 

 

一方加入当初システムとしての経験不足の煽りをうけた12期が今、ようやく明確な後輩たちを得て新たな魅力を花開かせようとしています。
彼女たちは決して自身の不遇を呪うことなく、むしろそんな環境の中でも愛を注ぎ続けてくれた先輩たちへの感謝を滾らせ
グループへの愛とグループの未来への野心を燃やしています。

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「ふくむらみず期」の命名者は12期、羽賀朱音
譜久村リーダーを始めとした9期10期11期もまた、高橋愛が「9期は特別」と言うのと同じように12期を「特別」な後輩と見ているようです。
それは彼女たちが加入した時自分たちが未熟だったゆえにベストを尽くせなかった忸怩たる想いもあるのかもしれません。

しかしひたすら愛の大きさによってのみ育てられた12期は、これからのモーニング娘。の「愛」を担い未来を担う。
そんな気がしてならないのです。

また、'14の呪縛と戦い耐え抜いて新たな時代を築き上げた譜久村リーダーを、
その強さと優しさを最も肌で感じたのもまた12期なのではないでしょうか。

 

 

これからまた先輩メンバーの卒業が始まるかもしれません。
そんな折、私たちファンが今を惜しむあまり意固地にならず、変化を受け入れることは彼女たちの助けになるはずです。
あれだけ黄金期と比較されることに辟易した「'14」時代のファンが
譜久村リーダー体制以後「'14時代は良かった」などと言い放ってしまっていたのも因果なこと。

'14は最高でした。そして「ふくむらみず期」はそれに勝るとも劣らないくらいに最高です。
であるならば次の時代のモーニング娘。が全く違う姿だったとしても十分に「最高」になりえるのですから。

 

 

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だけど少しでも長く「ふくむらみず期」を見守っていたいと思うのも、ファンならば仕方のないこと、ですよね。