モーニング娘。が「この地球の平和を本気で願ってるんだよ!」を歌う凄さと意義についての話
こんにちは。
前回の記事が多くの方に読んでいただけたようで大変うれしく思っています。
かえれなちゃんの魅力についてもっと掘り下げた記事も書きたいですが
今回はこちらについて語ります。
略して「地平本願」
なんじゃそりゃ?と思う方もいるかもしれませんが、
モーニング娘。が2011年にリリースしたシングルのタイトルです。マジです。作詞作曲は我らがつんく♂さんです。
公式MVはカップリングの「彼と一緒にお店がしたい!」と繋がっています。
是非ご覧ください。
発表された当時、ファンも結構戸惑いました。
タイトルがなんというか、ストレート過ぎる…。チャリティーソングだってもうちょっと捻った、というかオシャレなタイトルつけるもんじゃない?
しかもこの曲が、大功労者6代目リーダー高橋愛さんの卒業シングルのA面ということもあり。キンキラキンの露出の高い衣装とか、全部がちぐはぐな印象を抱いたものでした。
結局「???」とはなりながらも、曲がかっこよくて出来がいいし、メンバーはみんな可愛いし、と普通に受け入れられていきました。
つんく♂さんの変な歌詞、変なタイトルには慣れっこになっていたというのもあります。
しかし改めてモーニング娘。歴代シングルの中の一曲としてこの曲を見た時、
私はこの曲につんく♂さんがモーニング娘。に求め、モーニング娘。でやろうとした「アイドル」の全てを見出してしまいました。
- そもそもアイドルってなんだっけ
アイドルは直訳すると「偶像」となります。
偶像とは宗教上の、目に見えない神様の代替として形あるものを崇拝の対象とする、その物のことです。
歌って踊る女の子男の子の芸能人を「アイドル」と呼ぶのは、ある種の宗教に近い感覚があるのだろうと感じます。
多分最初のアイドル的存在は「巫女」なのではないかと思います。
大衆の為に神に舞を捧げ、祝詞を読み、処女性をもって神聖さを保ち、神を宿すというあり方は
現在のアイドルの源流と思えます。
さらに辿れば人身御供、犠牲的死をもって神格化された少女たちまで行きつきそうですが割愛します。
巫女が舞いを捧げることで、五穀豊穣、太平、安全、平和を祈り、その祈る姿に大衆は安堵し感謝し憧憬を抱き熱狂もする。
それは「アイドルの歌から元気を貰い、日々の活力を得る」という感覚と、とても近いように思えるのです。
それが「アーティスト」「音楽家」としてだけに留まらない「アイドルの歌」の意義なのかなと思います。
- 「地平本願」はどういう歌?
タイトルが余りにもストレートで「クサい」ので、歌詞も高らかに世界平和を歌ったものになっているかというと全然違います。
主人公の女の子は日常の、家族のことや試験のことそして彼氏のこと、いろいろな小さな悩みに奔走しています。だけど「この地球の平和を本気で願ってる」のです。
大人になってからこの曲を聴いた私は、正直に言って鈍器で頭を殴られたような衝撃を受けました。
なぜなら私自身幼い頃、両親から、あるいは学校で、戦争は悪い事で人は当たり前に助け合わなければならず差別や偏見は無くすべきことと習い、確かにその通りだと思いました。
あの頃の私はたしかに「この地球の平和を本気で願っていた」し、みんながそう願えば全てが上手くいって「この地球の平和」が実現できるものと思っていました。
だけど成長するにつれて、世の中そう単純には出来ていないことを知ります。
全てを白黒で分けることは出来ないし、二者間の対立にはどちらが悪いともいいとも言えないような場合がほとんどです。
優しさや愛情よりも、怒りや苛立ち、ヘイトが勝ってしまう経験が増えてくると
自分を含めた「人間」に対する信用も薄れてきます。
さらに生活していく上での身の回りのあれやこれや、学校の成績、人間関係、お金の問題、そんなことがリアリティを帯びていくと、世界のことなんて考えている余裕なんてなくなります。
「この地球の平和を本気で願ってる」なんて言えなくなってしまったのはいつくらいだろうか。多分私の場合、中学生くらいの時にはもう、ニヒルを気取ってた気がします。
だけど「地平本願」の女の子は、同じように色んな生活のあれやこれやに追われながらも、ちゃんと「この地球の平和を本気で願っている」のです。
その気持ちを無くさず未来に進むんだ、大人になるんだという決意表面のをするかのように、高らかに歌い上げています。
大人の皆さんは「この地球の平和を本気で願う」心をまだ持っていますか?
もう無い、なんて人でもきっと心の奥底にはその気持ちを持っていると思うのです。
- アイドル「モーニング娘。」が歌うことの意味
世界を良くしたい、世界平和を実現したい、そう思ったとしても、何をどうすればいいのかさっぱりわかりません。学者や政治家が頭をこねくり回してもなかなか正解にはたどり着けず相変わらず世界は混とんとしています。
現在の世界が着実に「平和」に向かっているのか、それとも「破滅」に向かっているのかさえ、神にしか分らないことでしょう。
だけど少なくとも「この地球の平和を本気で願っている」人が居なくなれば、未来永劫「この地球の平和」は訪れない。
だからせめて人々の心に「地平本願」の火が常に灯っていますように、そういう願いのこもった歌なのではないかと思います。
そしてモーニング娘。のメンバーたちは普通の女の子。だけどアイドルです。
アイドルが五穀豊穣、安全、そして平和の為に祈る巫女であるならば、この歌を高らかに歌うことこそその務めであるとすら思えます。
歌詞の中の女の子のように、彼女たちも日々の生活に追われているでしょう。世界平和と言ったって「政治的な正しさ」なんて考えもしないことでしょう。そもそも「祈り」には何の実効もありません。
それでもその歌声は広く人々の胸に届き、消えかけていた火をもう一度灯してくれるかもしれません。
「この地球の平和を本気で願っているんだよ!」はつんく♂さんが、彼女たちがアイドルだからこそ歌わせたかった、彼女たちの姿そのものを描き出した曲。そんな気がしてなりません。
近年、若い女性ファンも増えたモーニング娘。
彼女たちの中に「モーニング娘。は世界を守る戦士みたいなかっこよさがある」と評する人がいて妙に納得したのを覚えています。
別に何かと戦っているわけではないけれど、彼女たちは歌の力、パフォーマンスによって世界の平和を祈っている。みんなの心の平穏と安寧を、愛と希望が心から消えてしまわないことを祈っている、そう思わせられる瞬間が私にもあります。
「love&peas」を高らかに歌い上げる。それがアイドルの責務なのかもしれません。
おまけ
つんく♂さんの歌詞の世界観にはときどき、すごく仏教的な要素が盛り込まれていることがあります。
つんくさん自身が浄土真宗本願寺派の門徒でもありますし、色濃く影響を受けていることが見て取れます。
浄土真宗は日本でもトップクラスに信徒の多い宗派なのでご存知の方も多いと思います。「南無阿弥陀仏」の宗派です。
いったいどういう宗旨かというと、簡単に言ってしまえば
阿弥陀仏という仏さまが全ての人を救う為に祈ってくれてる。そして阿弥陀仏の祈りによって既にすべての人は救われている。だから感謝しましょう。
という話です。
釈迦と違って実際に阿弥陀仏なる人物はいませんし、もちろん概念ではあるのですが
この宗教における大事な部分は、我々衆生は日々の暮らしで精一杯だけれども
「すべての人を救う」というとてつもない願いを持つ存在がいる。ということが想像できる。そのとてつもない願いを前に自分の悩みや人生はとてもちっぽけなもの。だけど阿弥陀仏という存在を通して「全ての人間を救う願い」に触れることが出来る。
というようなことかと思います。
(※門徒の方、私の解釈が違ってたらごめんなさい)
すごくつんくさんの歌詞の世界観と合致すると思いませんか?私だけかな?
ちなみにこの曲の略称「地平本願」はファンが言い出したのですが、すごく響きが好きです。
意図したことではないと思いますが、「本願」は仏教用語で、阿弥陀仏がすべての人を救うという願いそのものを表す言葉です。
仏典に「地平本願」という四字熟語が載っていてもおかしくないようなマッチ具合だと思いませんか?
もし「地平本願」という漢詩が先にあって、それを和訳したのが「この地球の平和を本気で願ってるんだよ!」だったら最高にカッコイイな、とか。
井伏鱒二が「人生足別離」を「サヨナラだけが人生だ」と訳したようなロックを感じます。